【本祭レポート】12/2 授賞式
12/2(金)授賞式のレポートは、実行委員長の宮本がお送りします。
――――――――――
非常に長いので、賞の発表は一気にしてしまいます(笑)
・観客賞『Darling』Sebastian Schmidl監督
・最終審査員賞
坂本安美賞『トオリ雨』稲田眞幹監督
富岡邦彦賞『ALICE』Satindar Singh Bedi監督
土居伸彰賞『私には未来がある』大内りえ子監督
・グランプリ
アニメーション部門『EDMOND』Nina Gantz監督
実写部門『Darling』Sebastian Schmidl監督
賞の授与後にグランプリの2作品を上映し、トークショーを行いました。
トークショー登壇ゲスト
『EDMOND』エディター Nina Racさん
『Darling』Sebastian Schmidl監督
坂本安美さん
富岡邦彦さん
土居伸彰さん
MC・上田菜央さん
「トークショーを開始いたします。改めて『EDMOND』エディターのNina Racさん、受賞されていかがですか?」
Nina Racさん
「あまり人前で話すことが得意ではないのですが、すばらしいラインナップの中から、自分の作品が賞に選ばれたことを大変名誉に思います。ありがとうございます」
上田さん
「Ninaさん、ありがとうございます。それでは審査員の皆さん、改めて『EDMOND』についてお話しいただけますか?」
土居伸彰さん
「実写・アニメーション両部門どちらも非常にスタイリッシュで新しいことを試みている作品が多かった中で、グランプリを獲得した『EDMOND』は技術的な面にもアクチュアリティを感じさせ、かつそれが観客とも共有されやすい。フェルトの質感が心情表現とマッチしていたし、顔にドローイングを合成するというあまり見られない手法など、全ての技術がストーリーテリングに有機的に貢献していると思います」
坂本安美さん
「先ほど土居さんがおっしゃったように、私もフェルト素材のデリケートな質感や、微妙な表情の変化に魅了されました。また過去にどんどん遡っていくというアイデアはシンプルに見えて非常に映画的でした」
Ninaさん
「主人公は過去を回想する中でどんどん違う部屋に移っていきますが、そのアイデアは登場人物が色んな部屋を行き来する演劇から得ました。その構成を作品に落とし込むため、ラフのビデオコンテに非常に時間をかけました」
富岡邦彦さん
「今日来られているのはエディターのNina Racさん、そして監督も同じ名前のNina Gantzさん。二人が所属していたイギリスのNational Film and Television Schoolではチーム製作をするそうですが、『EDMOND』の場合はどのように組んだのですか?」
Ninaさん
「学校には色々なコースがあるのですが、監督コースの学生がプレゼンをして、それを聞いたスタッフコースの学生が希望を出し、先生が調整してくれます。ただ私の場合は元から監督と相性がいいと思っていたので、一緒に作ろうとお互いに話していました」
上田さん
「土居さん、日本でそういうチーム製作を行う学校はあるのでしょうか?」
土居さん
「僕の知る限りではほとんどありませんね。京都精華大学が少しやっているくらいで、日本のアニメーション学校は基本的に一人で製作します。そもそも監督コースだとか、そういう分け方自体あまりないと思います。海外の学校は卒業した先を見据えているというか、アニメーションを産業向けのひとつのプログラムとして作るために、チーム製作をしっかり教えている印象です」
富岡さん
「日本は実写の世界でも、監督ひとりの思いで突っ走ってしまうことが多いです。現場も『監督がやりやすいように』という体制で、監督とスタッフの間にコミュニケーションが生まれにくい」
実行委員長・宮本
「先ほど土居さんがおっしゃっていたことと重なりますが、『EDMOND』は短編アニメーションなのにエンドロールが非常に長く、たくさんの人が関わっていますよね。そういうチーム制作には予算もたくさん必要だと思いますし、学校ではプロデュース方法についてもよく教わるんでしょうか?」
Ninaさん
「実際の予算はそれほど多くないです。でもスタッフも学校にたくさんいるわけではないですし、プロデューサーが学校の外から人形を作る人材を連れてきたりと、製作の大変さが垣間見える作品になっているのかなと思います」
上田さん
「皆さんありがとうございました。それでは実写部門グランプリ『Darling』のSebastian Schmidl監督に、改めて受賞したお気持ちをうかがいたいと思います」
Sebastian Schmidl監督
「このような名誉にあずかり、本当にありがとうございます。改めて審査員の方々、観客の皆さん、映画祭のスタッフに感謝の気持ちを伝えたいです。京都は美しい街で、この映画祭に参加できたことは本当に良い経験になりました」
上田さん
「Sebastian監督、ありがとうございます。それでは審査員の皆さん、『Darling』についてお話しいただけますか?」
坂本さん
「一番この作品に惹かれたのは、監督の言葉を使わせていただくと、ささやかな瞬間の積み重ねによって、人間の歴史なり、関係の変化を静かに見つめているところです。こういった作品はよくありそうで、実は少ないと思うし、ささやかだけれども、人間にとって重要なものを見つめ直す機会を与えてくれた映画でした」
富岡さん
「夫婦と、夫のお父さんの3人を描いた作品ですが、その父親が鍵になっていて、最初のアイデアはそこだったと思う。どのようにお父さんを描こうと思ったのかを監督に聞きたいですね」
Sebastian監督
「お父さんは、夫婦の関係を見つめるひとつの視点として重要でした。映画を撮る際は視覚的な部分を重視して、ロングショットかつロングテイクを心がけました。細かく演出はつけず、ある程度自由に演じる俳優にカメラを向け、人間の機微を見つめました。また舞台となっている家は、街から離れていて、私たちが作品のテーマと向き合う上で重要でした。
ストーリーは夫婦の別れという単純なものですが、それをどのように見せるかということを意識しました。離婚する男女がそれに向かって一直線というわけではないし、ひとつひとつの瞬間を丁寧に撮りたかった。その中でお父さんは夫婦を繫ぎとめ、二人の関係をさらに複雑で繊細なものにする存在として描きました」
土居さん
「この映画を観てはっとさせられたのは、お父さんの肉体です。本当に歳を重ねてきたリアルな肉体が描かれているように感じました。またアニメーション界の人間としては、誰もいない部屋のショットが実にanimateされているような感覚になって非常に興味深かった。この二つをどのように撮影したのかお聞きしたいです」
Sebastian監督
「お父さんの肉体について言うと、撮影監督のGeorgは、イタリアのFausto Podaviniという写真家が撮った老夫婦の写真からインスピレーションを得たそうです。
(参考:http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7621/)
空っぽの部屋の映像はこの映画を象徴するものです。夫婦がセックスをするシーンによって作品が高まりを迎えたあと、誰もいない部屋を映すことで夫婦の別れを効果的に表現できると思いました」
上田さん
「ここで観客の皆さんからご質問を受け付けたいと思います。貴重な機会ですし、いかがでしょうか?」
お客さん
「『Darling』のお父さんは車椅子に乗っていましたが、演じている俳優の方は普段から車椅子で生活されているのでしょうか?」
Sebastian監督
「おっしゃる通り、普段から車椅子で生活されています。彼はオーストリアでとても有名な俳優です。お歳を召していらっしゃるので、一日に撮影できる時間も限られていたのですが、カメラを回し始めると若者のように非常にエネルギッシュに演じてくださいました」
上田さん
「ありがとうございます。もう御一方、いかがですか?……いらっしゃらないようでしたら、実行委員長の宮本さん、どうでしょうか?」
宮本
「審査員の方にお聞きしたいです。実は『Darling』が実写部門のグランプリに選ばれたのは、実行委員にとって意外でした(笑)両部門合わせて500作品以上の中から選んでいるので、どの作品がグランプリになっても全くおかしくないという確信はあったのですが……。審査員の方々はスタイルよりもヒューマニズムを重視しているような印象がありますが、いかがですか?」
土居さん
「そういう意味では『Darling』は非常に誤解を受けやすい作品かなと思います。言葉で表現するのが難しいけれども、観ていて気づかないほど高度にスタイルが洗練されているというか、その中で人間のリアリティを丁寧に語れている作品ではないでしょうか」
富岡さん
「確かに目新しさはないけれども、丁寧さが大事ですね。ひとつのテーマをいかに丁寧に描くかという点で優れていた。個人的には日常を描いた作品をあまり評価する方ではないですが、丁寧さという点では他の審査員の方とも一致しました」
坂本さん
「本当にどの作品も見応えがありました。ヒューマニズムを重視したというわけではないのですが、映画の醍醐味は目の前で起きることをどう写しとるかだと思います。『トオリ雨』への授与の時にも申し上げたんですが、スタイルがどんなに洗練されていても、目の前で起きていることへの驚きだとか、そこに立ち会う制作者の感じていることが観客に伝わってこなければ、私は映画の醍醐味を感じられないです。そういった点において『Darling』は素晴らしかったと思います」
土居さん
「この流れで最終審査員賞の作品についても話しておきましょうか。今回『物語をどう語るか』という点について非常に長くディスカッションしたのですが、その中で僕は『私には未来がある』を賞に選びました。これは振り切れ過ぎた物語のスタイルを取っていて、『観客など知ったことか』という印象さえ抱かせるような作品ですが、こういったある意味で究極的に閉じた物語もひとつのアクチュアリティを持っているのではないかなと思います」
富岡さん
「審査の中で『私には未来がある』のような作品について議論できたのは楽しかったです。僕が選んだ『ALICE』は明確に物語を語り得ているかというとそうではないんですが、基本的な軸の部分でどういう題材を選ぶか、そして圧倒的な画面の力。映画の『画』であると感じたし、役者の演技も素晴らしい」
坂本さん
「『トオリ雨』は先ほど申し上げた通り、目の前で起きていることへの驚きだとか、そういうことですね(笑)」
上田さん
「本当に深いお話をありがとうございました。グランプリを受賞されたNina Racさん、Sebastian Schmidl監督を今一度大きな拍手でお送りください」
――――――――――
非常に長かったですが、授賞式のレポートは以上です。
来年で第20回目を迎える京都国際学生映画祭を、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
0コメント